おいしいものこそ、
体にいいものであるべきだ。
病気になった人を見て、「あの人は、おいしいものばかり食べていたからね」と言う。 「おいしいものばかり食べていると、病気になるよ」と言う。
私は、ずっとその言葉に違和感を持ってきました。
おいしいものが、体に悪いのではない。おいしさをつくる技術と、体についての知識が、 まだ本気で出会っていないだけだ。私はそう考えています。
おいしいものこそ、体にいいものであるべきだ。
このプロジェクトは、その一つの確信から始まりました。
01「おいしい」と「体にいい」は、別々の場所にいた
たとえばフランス料理なら、バターをたっぷり使う。塩も、油も、おいしさのためには惜しまない。 料理人は、ひと皿のおいしさに人生をかけて向き合ってきました。けれど、病気や体のこと、 栄養や医療の知識を学ぶ機会は、決して多くはありませんでした。
一方で、病院の食事は、たんぱく質や塩分、エネルギーを正しく管理することに力を注いできました。 管理栄養士の仕事は、治療に欠かせない土台です。ただ、その中で、おいしさはどうしても後回しになりやすい。
おいしさのプロと、体のプロ。どちらも本物なのに、二つの専門は、これまで別々の場所にいたのです。
02冷蔵庫の余りものが、教えてくれたこと
歯科医師として、たくさんの口と向き合ってきました。噛む力や飲み込む力を取り戻しても、 その先の食事が心を満たすものでなければ、人は本当の意味で「食べる」を取り戻したとはいえない。 診療室で、何度もそう感じてきました。
ある日、冷蔵庫に残っていたわずかな食材から、渡辺雄一郎シェフが一皿をつくってくれました。 それが、驚くほどおいしかった。
一流の料理人は、豊かな食材があるときだけ力を発揮するのではありません。限られた食材、 塩分やたんぱく質の制約。条件がある中でこそ、香り、温度、食感、うま味、余韻を組み立て、 想像を超える一皿を仕上げる。制限を、創造の起点に変える力を持っています。
この力に、医療の知識が加わったら。
病院食も、治療食も、外食も、根本から変えられる。

03一方通行では、続かない
これまでも、シェフと病院が組んで病院食をつくったり、ヘルシーなお弁当を開発したりする試みはありました。 話題にはなっても、その多くは単発のイベントで終わってしまった。
理由は、一方通行だったからだと私は思います。シェフが医療に料理を「提供する」だけでは、続かない。
Clinical Gastronomy は、双方向のプロジェクトです。医療の側からは、疾患や栄養、噛むこと・飲み込むことの知識を、 シェフへ。シェフの側からは、おいしさをつくる技術と発想を、医療へ。このプロジェクトに参加する医療者と料理人が、 互いにセミナーを開き、学び合います。
- 体の知識を得たシェフは、病院食だけでなく、ふだんのメニューにも健康への理解を込められる。料理人としての進化になる。
- おいしさを知った医療者は、患者さんの食事を、根本から変えられる。
- 互いに学び、互いに得るものがある。だからこそ続き、続くからこそ、文化になる。
そのために、ミシュランの星を持つ料理人をはじめ、確かな技術と志をもつシェフを厳選し、 ひとつのコミュニティとして医療とチームを組みます。双方向に手を結んで初めて、 体によくて、心からおいしいものが生まれる。それが、私の考えるプロジェクトです。
04病気の、いちばんの寂しさ
入院していなくても、腎臓病や糖尿病などの持病があり、食事にたくさんの制限を抱えている人は、 数えきれないほどいます。行きたいレストランに行けない。家族や友人と、同じものを食べられない。
病気の悲しさは、症状だけではありません。大切な人たちの輪の中にいながら、ひとりだけ違う皿を前にする。 その寂しさこそが、いちばんつらいのだと思います。
私が最初に思い描いたのは、ガイドブックでお店を探すように、腎臓病や糖尿病に対応した一皿を出せるレストランが、 マークでひと目でわかる世界でした。一流のレストランで、家族と同じテーブルを囲み、同じように「おいしい」と言える。
病気があっても、大切な人と、同じ食卓で笑える。
Clinical Gastronomy なら、その寂しさを解決できる。

05日本から、世界へ
病院から、レストランへ。そして、商品の開発へ。広がりは、日本の中だけにとどまりません。
糖尿病や腎臓病など、食事に制限を抱えて暮らす人は、世界中にいます。日本の医療の知見と、 世界に誇る料理人の技術を、国や地域を越えて届けることができれば、世界中の食卓で、困っている人を助けることができる。
それは、料理人にとっても新しい舞台になります。国内では原材料の価格が上がり、地政学的にも難しい時代が来るかもしれない。 国内だけで待っているのではなく、世界に活躍の場を持つことで、料理人とそのチームの可能性は、さらに大きく広がるはずです。
医療と食が組み、共に創る。その橋渡しをするのが、このプロジェクトです。それは日本の国力の向上にもつながり、 政府への政策提言にもつなげていけると考えています。
病気があっても、国や言葉が違っても、同じ食卓を囲み、同じように「おいしい」と笑い合える。 食を通じて人と人がつながることは、きっと世界の平和にもつながっていく。私はそう信じています。
06私たちにしか、できないこと
医療と食が、これほどの規模で手を結ぶことができれば、それは日本で、そして世界で、まったく新しいプロジェクトになる。
料理人、医療者、研究者、企業、医療機関、行政。これまで別々の場所で力を尽くしてきた人たちが、ひとつの目的のもとに集まる。 私の役割は、料理をつくることでも、医療だけで答えを出すことでもありません。この人たちをつなぎ、 続いていく社会の仕組みにすることです。
Maison de Santé は、その旗印です。シェフの皆さん、医療に携わる皆さん、企業の皆さん。 どうか、この挑戦に力を貸してください。私たちにしかできないことを、Clinical Gastronomy で、一緒に。
おいしいものこそ、
体にいいものであるべきだ。
医療と料理人が、双方向に手を結ぶ。
病を得たその日から、最期のひと匙まで、おいしい人生を。
Clinical Gastronomy Project
富田 大介
Clinical Gastronomy Project 提唱者・発案者
株式会社メディデント 代表取締役CEO
